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脳はあらかじめプログラムされている!?
恋のときめきを感じる、脳の「報酬系」とは

脳科学で読み解く「恋愛のシステム」

 脳はあらかじめプログラムされている!?
 恋のときめきを感じる、脳の「報酬系」

『さて、この報酬系が活動すると、人間は快楽を感じます。なので、人間は必死になって、この部分を活性化させようと行動するのです。  
 
 では、報酬系は、具体的にどういう行動で活性化するのでしょうか?
 報酬系の主役で、快感神経として知られるA10神経を含む内側前脳束は、情動、個体の維持、種の維持に関連する領域を貫いています。  
 要するに報酬系は、生きていくのに必要なものを得たときに活性化するようにできているということになります。
 「生きていく」ということには、2つの内容を含みます。
 自分が生きていくこと(個体の維持)と、種として生きていくこと(種の維持)です。  
 つまり、脳というのは「自分が生き延びるための行為=食事」や「子孫を残すための行為=セックス」に快感を覚えるように、あらかじめプログラムされているのです。
 たとえば、お腹がすいた状態で、おにぎりを食べると、とても美味しく感じるでしょう。これは、私たちの脳が、生きていくのに必要なものを得ると快感を感じるようにできている証拠なのです。
 報酬系があるおかげで、私たちは生存に必要なものを求めて行動することができ、個体として、あるいは種として、生き延びていけるのです。  
 報酬系が活性化するのは、欲求が満たされたときだけではありません。「もうすぐ○○ができる」と、何かを期待して行動をしているときにも活発に活動します。  
 たとえば、とくに男性なら、若くて性的な欲求が高い時期に、魅力的な異性の姿を見かけたとき、それがグラビアでも動画でも、実際にはその相手に指一本触れていないのに、なんとも言えない楽しみを感じるでしょう。  
 それから、金曜日の夜など、焼魚のいい匂いがどこからともなく漂ってきたら、なんとなく、居酒屋ののれんをくぐりたくなりませんか? 
 美味しい匂いがしてくる。それだけで、美味しいものを食べている光景が連想される。
 このとき、報酬系が活発に活動しています。居酒屋ののれんをくぐって、注文をすませ、出てくる料理を待つとき、おそらくその活動は最高潮に達しているでしょう。
 欲求が生じたらすぐに満たすのではなく、できるだけじらしたほうが長く楽しめる、というのは期待感で動く報酬系の性質によるものなのです。  
 また、ほかの生物では、摂食や性行動が報酬系の活動と結びついているのがふつうですが、人間に特徴的なのは「美しいもの」や「好奇心を満たすこと」、「他者に褒められること・愛されること」、「次世代を育てること」など、より高次で、社会的・長期的なことがらもまた報酬系を活性化させるという点です。  
 たとえば、食べるものを褒めるときにも、味そのものが美味しいことのほかに、見た目が美しいことや、器との調和、斬新な食材の組み合わせによる新鮮な驚きをプラスに評価したりしますね。  
 これが、動物の摂食行動との違いです。  
 異性を褒めるときにも、肉体の性的機能や魅力そのものを評価するということはもちろんあるでしょうが、それよりもむしろ、精神性や人柄を重視するという場合も多いでしょう。  
 人間は、日々、必死になって、報酬系を活性化させるために行動しています。その報酬は、単純な食の喜びや性の快楽だけではなく、より高次で社会的であったり、時間的に長期にわたることだったりするのです。さらに人間は、直接得られる報酬に限らず、将来得られるであろう報酬を予期して、そこへの期待を喜びとし、原動力としながら、活動しています。    
 要するに、自分でも意識しないうちに、ニンジンを自分の目の前にぶら下げながら走っているのです。この、自分のためのニンジンを上手にぶらさげることができる人が、幸せを手にしていける人の要件とも言えるでしょう。
 その人は、自分の脳をうまくコントロールできる人、ということになるのです』

 いかに眼の前にニンジンをぶら下げて、自分を走らせることができるか?
 自分の脳を使いこなす極意とは、そこにヒントがありそうだ。

 

◆中野信子(なかの のぶこ)

脳科学者。東日本国際大学特任教授。横浜市立大学客員准教授。1975年生まれ、東京大学工学部卒業、同大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。医学博士。2008年から10年まで、フランス国立研究所ニューロスピン(高磁場MRI研究センター)に勤務。著書に「脳内麻薬 人間を支配する快楽物質ドーパミンの正体」(幻冬舎新書)、「脳はどこまでコントロールできるのか?」(ベスト新書)ほか。最新刊は、『幸せをつかむ 脳の使い方』(KKベストセラーズ)。

 

 

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